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いきなりタイトル逆のことを言うが。ラグビーには基本的に「花形」と呼ばれるポジションは存在しない。

 

ラグビーの精神である「one for all、all for one」に反するというよりかは「それぞれのポジションにそれぞれの個性がある」というのが主な理由であろう。

 

その中でもあえて「花形ポジション」を求めるとするのであれば、フォワードではフランカー、バックスではスタンドオフと言う事になるのではないだろうか。

 

バックスの花形、スタンドオフ。海外ではフライハーフと呼ばれる事も多い。背番号は10番。良く言われる愛称・通称は「司令塔」である。

 

スタンドオフが何故「司令塔」と呼ばれるのか。これには明確な理由がある。

 

スクラムからスクラムハーフを通じて運ばれるボールに、バックスの中で一番最初に触る事が出来るのは通常スタンドオフである。

 

スタンドオフはこの特性上、次のプレーのサインを決め、バックスに伝える役目を持っている。つまり、スタンドオフはフィールドの中の監督の役目も担当しているのである。

 

一度ボールが渡れば、そこから先はスタンドオフの直感のままボールを動かす事になる。時には自分が出したサインに逆らってキックをしてみたり、サインが見破られていると感じたときは自分でボールを持ってランを選んだりする事もある。

 

廻りの14人はサインに従いつつ、このスタンドオフの言わばアドリブ芝居を見て即座に自分のやるべき事を判断し、これに従うのである。そういう意味ではスタンドオフは純粋に指令を出す司令塔ではなく、廻りの良いところを引き出すオーケストラの指揮者に近いとも言えよう。

 

日本でスタンドオフが「花形」「司令塔」として広く一般に知られるようになったのは二人の天才の功績が大きいだろう。

松尾雄治

一人目は松尾雄治。新日鉄釜石7連覇達成の立役者である。その正確無比なキックは、30メートル先のターゲットに対し、誤差1メートルで落としたと言われている。


引用元

あの楕円球をこれだけの正確性でキック出来るというのは殆ど神業に近い。東京成城で生まれ育った松尾の都会的なセンスに、地元釜石を中心とした東北の若者達のおとなしくも荒くれた精神をミックスして、釜石は「無敵のチーム」に育ったのである。

 

松尾の名場面はやはり引退試合となった日本選手権7連覇の試合であろう。

 

足首を痛めていた松尾は痛み止めを打って強行出場、これに三度目の正直とばかりに襲い掛かる同志社。試合は一進一退の攻防のままノーサイドの時間が近づき、ここで伝説のプレーが誕生する。

 

敵陣深くでペナルティを得た釜石はキックを選ばず、そのままパス攻撃を選ぶ。スタンドからの割れんばかりの声援でサインが聞こえない釜石フィフティーン。

 

ここで松尾は空中に大きく指で「2C」と書く。この時テレビ解説をしていた早大監督日比野氏が「(ナンバーエイト千田の背番号を示す)8の字を書いた」と言ったため、その後長く「8の字サイン」と語られる事になるのだが、松尾自身は後に「2C(2のヨコに千田、CはChidaのC)と書いた」と明言している。

 

このサインプレーは鮮やかに決まり、千田はゴールポスト真下にトライ。釜石の7連覇は確実なものになったのである。

↓伝説のサインプレーはこちら

ノーサイド後、この試合を最後に引退を表明していた松尾は苦楽を共にした釜石フィフティーンに肩車をされて場内一周。この光景をなんとも言えぬ表情で見つめていたのが、もう一人の天才である。

 

同志社大学、平尾誠二

伏見工業、同志社大学、神戸製鋼で日本一に輝き、日本代表のワールドカップ初勝利、ラグビー強豪国からの初勝利と輝かしい道を歩んできた日本が誇る「ミスターラグビー」である。

 

平尾は同志社大学時代からセンター(背番号12番13番)をつとめる事が多かったが、やはり鮮烈な印象を残した伏見工業時代の10番のイメージが強い。

 

所属したチームすべてを日本一に導いた神がかり的なカリスマ性、ファッション雑誌にモデルとして登場するほどの端正な顔立ち。平尾の登場は日本のラグビーシーンを一変させ、グラウンドに足を運ぶ女性ファンの数も増加したと言われる。

 

神戸製鋼を新日鉄釜石と同じ7連覇に導き、1998年に引退。ファンは天才・平尾が作り上げる日本代表を心待ちにしていたが、2016年10月に53歳の若さで惜しまれつつ亡くなった。

 

繰り返しになるが、日本ラグビーにおいてスタンドオフが「花形」と言われるようになったのはこの二人の天才に寄るところが大きい。

 

松尾が作り上げた日本ラグビーを平尾が磨き上げて世界の舞台に押し上げた。その二人の天才が背負った10番は、冒頭の言葉を覆すようで恐縮だが、やはり「花形」と言ってもいいのかも知れない。

 

 

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