2020年。新型コロナの影響で色々なスポーツの大会が中止に追い込まれるという、スポーツを愛する人間全てに取って不幸な年だった。
ラグビー界も例外では無い。前年のW杯で盛り上がりを見せ、各種メディアへの露出も増え、「さぁこれから!」と意気込んだ矢先のこの騒動である。
もう一度あのラグビー人気を、と願う、ファンも含めて全てのラグビー関係者が悔しさで唇を噛み締めた年だった。
トップリーグに昇格して3年目を迎える日野レッドドルフィンズにとっても、とりわけ悔しいシーズンだった事だろう。
日野は2019シーズンに昇格したが、トップリーグのレベルに全くと言っていいほど歯が立たず、リーグ・トーナメント通してわずか1勝。
2020シーズンはカップ戦のみの開催となった為、2019シーズンに得た経験を生かす機会すら貰えないままシーズンは幕を閉じた。
巻き返しを睨む日野にとって、欠かす事の出来ないプレイヤーが居る。
木津武士。
日本代表キャップ44を誇る、32歳のベテランプレイヤーだ。
木津は東海大仰星高校でラグビーを始め、東海大学に進んだ。東海大学では日本代表主将リーチ・マイケルと同級生だった。
小・中学校時代は相撲に打ち込み、元横綱貴乃花から貴乃花部屋にスカウトされた事もあるらしい。
相撲時代に培った「押し」を存分に生かせるスクラム第一列の中央、フッカーをポジションとしている。
木津と言えば、2015W杯で日本代表が起こした奇跡、南アフリカ戦のメンバーである。あの名実況「スクラム組もうぜ!」の際にもフッカーとしてピッチに立っていたプレイヤーだ。
2015W杯で歓喜の時を味わった木津だが、その後はお世辞にも「成功している」とは言えない。神戸製鋼でプレーしていた木津だが、新たな可能性を求めてW杯後の2018年にトップリーグ昇格直後の日野に移籍。
自らの経験で日野を引っ張る事を期待されたが、リーグ戦3戦目で負傷。古巣神戸製鋼との1戦では出場すら出来ず、木津を欠いたチームは10-74と大差をつけられて神戸製鋼に粉砕された。
2019W杯ではメンバーから漏れ、「夢よもう一度」と祈った2019W杯のピッチには立てていない。当然のことながらW杯連続出場を狙っていた木津にとって、計り知れない悔しさだっただろう。
だが、まだ32歳。落ち込むにも老け込むにも早過ぎる。
東海大仰星で同級生だった山中亮平(神戸製鋼)、東海大学で同級生だったリーチ・マイケル(東芝)はいずれも2019W杯のメンバーに選ばれた。木津もまだまだやれるはず。
木津は「ええ奴」である。
東海大仰星時代の恩師・土井崇司氏や神戸製鋼時代のチームメイト・谷口至氏ら木津の周辺の人間達は皆、「ごっつい、ええ奴」と口を揃える。
日野のようにトップリーグでの経験値の少ないチームには、いわゆる「精神的支柱」の存在が不可欠だ。日野が今シーズンの躍進を願うのであれば、その「精神的支柱」として木津の存在が欠かせない。
2019シーズン惨敗の悔しさ、2020シーズンの挑戦権すら奪われた悔しさ。
日野がこれらの悔しさを晴らし、トップリーグの台風の目となって大暴れする時、そこには必ず日野の精神的支柱として「ごっつい、ええ奴」木津武士の姿があるに違いない。
2015南アフリカ戦ノーサイド直後のような、溢れんばかりの木津の勝利の笑顔。
ファンはその笑顔を心待ちにしている。