2019年度のスーパーラグビー(SR)も開幕し、日本のサンウルブズも第3節で、ニュージーランドの強豪チーフスに快勝して、今シーズン初勝利を挙げた。2016年の初参加より、1勝、2勝、3勝と年々勝利数を伸ばしてきたが、
前節にワラビーズ(オーストラリア代表)をずらりと揃えたワラターズに、あと一歩と迫った惜敗といい、今シーズンはより一層の飛躍を期待される。
そんなサンウルブズだが、「なんでサンウルブズは日本のチームなのに、こんなに外国人選手が多いの?」という質問が常に付いて回っている。
日本のチームというと、黄色人種で名前は漢字というのが常であろうと思われるのに、白人やポリネシア系(アイランダー=フィジー・トンガ等島国の選手)が横文字の選手名で、10人以上プレーヤーとしてピッチを走り回っているのを見れば、当然の疑問であろう。
それにはいくつかの理由が考えられるが、サンウルブズが「もうひとつの日本代表」と呼ばれることにも拠る。
目次
1.日本代表の資格条件
ラグビーユニオンの規定として、外国人選手が該当国の代表選手になるための条件は、他国の代表選手になっていないことを大前提として、
・自分の出生国。
・両親・祖父母の誰かが生まれた国。
・3年継続して居住した国。
この3つのうち、どれか1つの条件を満たせば当該国の代表資格を得る事ができる。すなわち「日本代表選手」になるためには、国の部分を日本に置き換えればいい。
このうち3年(36ヶ月)継続居住条件は、2021年より、5年継続居住と変更される。また2000年以前は他国の代表歴の有無が条件になっていなかったので、オールブラックス(ニュージーランド代表)だった、ジミー・ジョセフ現日本代表ヘッドコーチ(HC)は、日本代表としてもワールドカップ(RWC)に出場している。
もちろん日本に帰化した選手は当然日本人選手としての扱いを受ける。登録名も名字・名前の順で表記され、例えば日本代表キャプテンのリーチ・マイケル選手は、2014年に帰化する前はマイケル・リーチと表記されていた。
このようにルール上は、何人外国人選手が日本代表になってもかまわないということになる。これはラグビーが他スポーツに多くみられる「国籍主義」ではなく、「協会主義」であるということであり、代表選手と言うのは国籍でなく、その選手がプレーしている国の協会代表ということである。(もちろん国籍のある国の代表選手にもなれる。またオリンピックの7人制では、オリンピックのルールに準じた。)
2.トップリーグ(TL)における外国人選手規定
この条件の中で、ほとんどの外国人選手が「3年継続居住」という条件を満たして代表資格を得ている。それはなんといっても、日本のラグビー社会人リーグの「TL」のチームに、多数の外国人選手が所属しているためだ。
当然各チームとしても、他国の代表・元代表というネームバリューを持った有名選手や、高いポテンシャルを持った選手と契約を結ぶこととなる。そして日本で生活し、プレーしていく中で、他国の代表歴の無い選手は日本代表を目指すことが多くなっている。(逆に言えば国籍のある国の代表資格を失うことにもなるが。)
TLにおける外国人選手の規定(ジャパンTL規約による)は、
・1チームに登録できる外国人選手の数に制限はない。
・グラウンドに同時に出られる外国人選手は2名まで(これは頻繁に変更されている)。この外国人選手とは日本以外の国代表歴のある選手、すなわち日本代表になる可能性のない選手を指す。
・この他に、日本人以外のアジア出身の選手枠が1人、他国の代表歴がない外国人枠(特別枠)が3人ある。なお、特別枠の外国人選手は日本代表になる資格がある選手ということができる。
ということは、最大6人の外国人選手が同時に出場できるということになり、この他に日本国籍に帰化をした元外国人選手も、日本人選手として出場できる。
ということで、やはり「TLには外国人選手が多いが、制限はないのでしょうか?」という声も多数寄せられるが、こういう規定があるためである。因みに企業クラブという独自のスタイルを持った日本では、外国人選手はプロ契約が殆どであるが、多くの日本人選手はその会社の社員(会社から給料を貰い、会社の規約通りに働く)である。
3.サンウルブズについて
以下は2019年2月時点での外国人登録選手の一覧。
№ | ポジション | 選手名 | 身長(cm) | 体重(kg) | 年齢 | 所 属 | 備 考 |
1 | PR | ヴァル・アサリエ愛 | 187 | 115 | 29 | パナソニック | |
2 | PR | 具智元 | 183 | 122 | 24 | ホンダ | |
3 | PR | クレイブ・ミラー | 186 | 116 | 28 | パナソニック | キャプテン |
4 | PR | ヘンカス・ファンヴィック | 183 | 115 | 26 | サニックス | |
5 | PR | パウアリアシ・ヌマ | 185 | 113 | 31 | 日野 | |
6 | PR | アレックス・ウォンドン | 184 | 110 | 30 | リコー | |
7 | PR | サム・ブラットリー | 194 | 114 | 29 | サンウルブズ | 新加入 |
8 | HO | ジャバ・ブレグバゼ | 180 | 108 | 31 | サンウルブズ | ジョージア代表 |
9 | HO | ネイサン・ベラ | 183 | 106 | 29 | コカ・コーラ | 新加入 |
10 | LO | グラント・ハッティング | 201 | 112 | 28 | 神戸製鋼 | |
11 | LO | ジェームズ・ムーz | 195 | 108 | 25 | サニックス | |
12 | LO | トム・ロウ | 200 | 116 | 27 | サンウルブズ | 新加入 |
13 | LO | マーク・アボット | 197 | 112 | 28 | サニックス | 新加入 |
14 | LO | ヘル・ウヴェ | 193 | 115 | 28 | ヤマハ | 日本代表 |
15 | LO | トンプソン・ルーク | 196 | 110 | 37 | 近鉄 | 日本代表 |
16 | FL | エドワード・カーク | 191 | 107 | 27 | キャノン | |
17 | FL | タン・ブライアー | 191 | 103 | 30 | サニックス | 新加入 |
18 | FL | ツイ・ヘンドリックス | 189 | 108 | 31 | サントリー | 日本代表
新加入 |
19 | FL | リーチ・マイケル | 190 | 110 | 30 | 東芝 | 日本代表 |
20 | FL | カラ・ブライアー | 189 | 84 | 27 | サンウルブズ | 新加入 |
21 | FL | ヴィンピー・ファンデルヴァル | 188 | 106 | 30 | NTTドコモ | 日本代表 |
22 | FL | ベン・ガンター | 195 | 114 | 21 | パナソニック | 新加入 |
23 | NO8 | ラーボニ・ウォーレンボスアヤコ | 190 | 108 | 23 | NTTコム | |
24 | NO8 | ピーター・ラービス・ラプスカフニ | 189 | 105 | 30 | クボタ | |
25 | SH | ジェイミー・ブース | 171 | 82 | 24 | サンウルブズ | 新加入 |
26 | SO | ヘイデン・パーカ^ | 175 | 80 | 28 | 神戸製鋼 | |
27 | CTB | フィル・バーリー | 182 | 93 | 32 | サンウルブズ | スコットランド代表
新加入 |
28 | CTB | マイケル・リトル | 183 | 89 | 25 | 三菱重工相模原 | キャプテン |
29 | CTB | ジェイソン・エメリー | 174 | 86 | 25 | サニックス | |
30 | CTB | ジェーン・ゲイツ | 183 | 96 | 26 | NTTコム | 新加入 |
31 | CTB | ウィイアム・トゥポウ | 187 | 101 | 28 | コカ・コーラ | |
32 | WTB | レメキ・ロマノ・ラヴア | 177 | 92 | 30 | ホンダ | 日本代表 |
33 | WTB | レネ・レンジャー | 183 | 102 | 32 | 日野 | ニュージーランド代表
新加入 |
34 | WTB | ホセア・サウマキ | 190 | 106 | 26 | キャノン | |
35 | WTB | セミシ・マウレア | 184 | 94 | 26 | 近鉄 | |
36 | FB | ヘンリー・ジェイミー | 184 | 95 | 28 | トヨタ自動車 | 日本代表
新加入 |
37 | FB | グラード・ファンデンヒーファー | 192 | 102 | 29 | クボタ |
※キャプテンはクレイブ・ミラーとマイケル・リトル との共同。
このように登録選手をみても、追加召集選手を含め52名中37名が外国人選手であるが、これは2018年シーズンの56名中29名よりもかなり高い割合と言える。しかし日本代表に準じるとすれ何人の外国人選手が登録されてもいいことになる。
しかしサンウルブズはそもそも、前日本代表HCのエディ・ジョーンズ氏の提案により、ゲームの国際感覚(ハードなヒット、強烈なデフェンス、そして強いメンタル等)を数多く経験することにより、より高いレベルで日本代表が機能できるようになることを目的として、南半球最強リーグと云われているSRに参加するために創立したチームである。
そのためにはやはり、どうしても日本人にはないポテンシャル(身長・体重・闘争心)といった要素が必要であり、現状では有力な外国人選手をチームに加えなければ、チームとしての維持も難しかったであろう。
しかもサンウルブズ誕生前には「外国人選手の中に10人位の日本人が一緒にプレーすれば、SRの主催者サイドも納得するだろう。」という声があったのも事実である。
しかしこのチームで揉まれる事によって、日本人選手に足りない面も見えてきたはずだ。そして、日本人選手にとって最も足りないと思われるのは、現代ラグビーにおいて試合の勝敗を決めるのは身体面とともに、「判断力」という面だ。
現在世界最強と謳われるオールブラックスは相手キックからのカウンターアタック、システマチックなデフェンスでターンオーバー(相手ボールを奪うこと)したアンストラクチャーの状態(陣形の整っていない状態)からの攻撃でトライを奪うパターンが多い。
これは個々のプレーヤーがその場面で最善の判断をしているからである。(もちろんそのプレーに対するスキルが高いのは当然であるが。)その反面決められたプレーに対し正確に実行し、その完成度にこだわるのが日本人のラグビー観といえる。
例えばパスプレーをとっても、日本人はWHO(誰に)ということに重きを置くが、外国人選手はWHEN(どのタイミングで)、WHERE(遠・近・右・左)、HOW(スクリューパス・ポップパス・バックフリップパスetc)、そしてパスをしないといういくつも選択肢を瞬間で判断する事が重要である。
このように違う国・人種が集ったチームで、ラグビー文化の違いを感じることで、より創造性の高いスキルを身につけることが、このチームの目標であろう。
また「もうひとつの日本代表」の位置づけとして、日本代表へのステップとしても考えられている。それだけに選手は日本代表のアビリティが求められている。(もちろんSRの経験者も多い。)
今は日本代表資格のない外国人選手も、将来を見据えチームの中心となっているし、国際試合の経験値をもっと上げたい日本人選手もいる。そして「サンウルブズに出れない選手を日本代表にするわけにはいかない。」という首脳陣もいる。
今年は9月に日本で開幕するRWCに向って、万全の準備をするためのスケジュールの関係で日本代表候補選手には別メニューで調整している。
そのため現在の段階では外国人選手、特に日本代表資格のない選手が多数出場しているが、徐々にこの選手が合流してくる見込みである。(コンデション調整や怪我の予防のため参加できない選手もいるようだが。)
つまり、サンウルブズの外国人選手達は、日本のために闘い続けているのだ。2019年ワールドカップの舞台で、日本代表が最高のパフォーマンスをするために、今 サンウルブズで外国人選手が戦っている事を踏まえると、大いに感謝しないといけないのだろう。