10月20日(日)東京スタジアム 初のベスト8に進出した日本代表は、南アフリカの鉄壁のディフェンスによりシャットダウンされた。このページでは、特に日本の心臓にプレッシャーをかけ続け、思い通りのプレーをさせなかったラグビー南アフリカ代表の効果的なディフェンスを説明したい。
南アフリカ代表が世界№1のディフェンスと称される理由の1つはタックルの強さとしつこさだ。身体的も勿論だが80分の試合の中で精神的にダメージを受けるのがディフェンスである。
日本代表のディフェンスよりも、ひた向きに、しつこくタックルをした南アフリカ代表。このタックルにより、日本の身体的ダメージは勿論、攻撃リズムの乱れを誘った。
世界№1の呼び声高い南アのディフェンスが、この試合でどのようなディフェンスでプレッシャーをかけ続けたのか振り返りたい。
目次
レイトタックル
レイトタックルをご存じだろうか?レイトタックルは、パスした後のボールを持っていない選手に対してタックルをする事だ。やり過ぎると危険なプレーとしてペナルティーが与えられる。
しかし、パスした後に1.5秒後まではOK!というようなタイミングが明確化されていないためレフェリーの判断にゆだねられる。基本的には、パスやキックをしたと同時or瞬間であれば問題ないが、そのタイミング入るのは簡単に出来る事ではない。
レイトタックルが成功すると確実にアタックの人数が減る。もちろんディフェンスの人数も1人少なくなるのだが、体に受けるダメージは違う。タックルに入られたアタックの選手は、パスした瞬間の無防備な体勢に入られる事も少なくない。
南アフリカ戦では、10番田村優がレイトタックルを狙われていた。このタックルにより田村優は体を痛め、最終的には途中交代となってしまった。
南アは確実にパスするorパスした事は承知の上で、田村を潰しに行っているのだ。どこかで聞き覚えがないだろうか?「潰してこい!」そう少し前に日本中の注目の的となった「日大タックル問題」。
あのプレーは、パスをした3秒後にタックルに行くという悪質極まりないプレーだったが、恐らく監督とコーチが意図していたタックルは、パスした瞬間の極のタイミングでの激しいタックルを期待していただろう。ラグビー南アフリカ代表のような。
もしかしたら、南アフリカのディフェンス戦術には、「10番の田村優がボールをもったらタックルに入れ。日本の心臓を潰すんだ!」という指示が出ていたのかもしれない。
それでは、南アフリカ対日本代表戦で見られたレイトタックルを数えてみよう。日本代表との圧倒的な数字の違いに驚くはずだ。
南アフリカのレイトタックル
前半6分にラインアウト日本代表ボールのラインアウトから、南アフリカ4番のエツベスが9番流がパスしたと同時に激しくレイトタックルで9番流れを倒す。そのまま日本のパス攻撃は外に展開し、8番姫野 ⇒ 7番ラブスカフニにパスするも南アフリカ6番シヤ・コリシが8番姫野にレイトタックルをお見舞いした。
前半から、互いのプレイドを賭けた勝負に気持ちが高ぶっている。前半10分 には、敵陣22m付近から10番田村が裏にキック蹴ろうとしたと同時に南アフリカ14番チェスリン・コルビが激しいレイトタックルを決めた。
11分のスクラムでは、9番 流から12番中村に回し、ブラインドから11番福岡がダミーランで走り込み、12番中村から9番流にパスを返すプレーも、11番福岡はタックルモーションに入っていた南アフリカ№8のドウェインにヒットされ暫く倒れ込んでいた。
前半16分には、松島のキック処理からラックが形成。ラックサイドの南アフリカディフェンスには9番のデクラーク、デクラークは9番流に狙いを定めノミネート。流がボールを触った瞬間にプレッシャーをかけ、流はパスを回すも、そのまま激しいレイトタックルを決めた。
前半23分の日本陣地からの攻撃、人数が余った状態で大外で手を上げるリーチ・マイケル。大きくゲインしポイントを作り、次の展開でオープンを狙い9番流⇒10番田村⇒5番ジェームス・ムーア⇒1番稲垣と上手くパスがつながったプレー。
しかし、田村はパスを回した瞬間に南アフリカ9番デクラークからの激しいレイトタックルにより体を痛めてしまった。
後半4分 日本陣地10m付近、ラックから9番流 ⇒ 2番堀江 ⇒ 9番流 ⇒ 10番田村にパスを展開したプレー。南アフリカ9番デクラークは2番堀江⇒9番流にパスが渡った瞬間にスピードを上げ、9番流がパスすると同時にレイトタックルを決めた。
後半5分、日本陣地22m付近からのオープン攻撃、9番流 ⇒ 4番トンプソン ⇒ 10番田村 ⇒ 12番中村 ⇒ 11番福岡にパスを繋いだプレーも12番中村が11番福岡にパスしたと同時に南アフリカ6番のリア・コリシが強烈なレイトタックルで12番中村を仰向けにした。
以上が南アフリカが決めた8本のレイトタックルだ。このタックルのうち危険と判断されたタックルは0本、どれも極のタイミングでの激しいタックルが成功している。
仮に、もし危険なタックルと判断されていれば下記動画のように、シンピン(10分間退場)となってしまう。
続いて日本代表が決めたレイトタックルを振り返ってみたい。
日本代表のレイトタックル
前半33分 日本陣地10m付近 6番リーチ・マイケルがタックルを受けボールをこぼしてしまいピンチに。南アフリカがオープンにパスを繋ぐプレーで日本13番ラファエレが飛び出し、10番ハンドレ・ポラードがパスしたと同時にタックルを決めた。
日本がパスした相手にタックルを決めたのはこの1本。タックル本数はボール支配率も関係してくるが、結果だけを見れば南アフリカのプレッシャーとの違いが見えたのではないだろうか。
そもそも、レイトタックルを決めるのは容易ではない。次にアタックの誰がボールを持つかを先読みし、素早いディフェンスのプレッシャーを継続してかけていく必要がある。タックルに入るタイミングが遅れれば、ペナルティーを取られるリスクもある。
また、通常はディフェンスの人数を減らさずに保ちたい。パスを回すのが分かっていれば、パスを受ける次のプレイヤーに対してディフェンスを仕掛けていく。
しかし、南アフリカ代表の日本戦でのディフェンスは違った。スクラムハーフ、スタンドオフへの常に厳しいプレッシャー。
レイトタックルに入っても直ぐに起き上がりディフェンスラインを整えていくプレーは、高校ラグビーの弱小校が強豪校に仕掛けるディフェンスだ。南アフリカ代表のディフェンスはランキング上位とは感じさせない直向きさを見せてくれた。